彼はそのまま眠らずに、テーブルに置かれたタバコの、シールをめくり、一本取り出す、中指で先を軽くたたく。近視のぼやけた目で模様の有無もわからないまましばらく天井をぼんやり眺め、葉が詰まったであろう、気がする、タバコに、火をつける、添えられたマッチをこすり、寝ながら。
起き上がりコーヒーに口をつけ、また彼は受付の前を通り、今度はありがとうと言って、細い階段を下り、昼時の街に出る。どこに行くわけでもなく、朝よりは柔らかくなった日差しを背中に、黒いジャケットが暖まる、暑くなる前にどうしようかと考える、彼は友達に会いに行く。
彼は大学の建物が好きだ、それはどういった大学でもよかった。そこには意図的に演出された自由な空気、過剰に用意された見晴らしのよさ、吹き抜け、といった開放的な雰囲気があった、どんなところであっても。そして、まるでそれが絶対に必要だとでもいうように、そういった清々しさの逆の位相として、狭く暗く窮屈な部屋も存在する。彼は大学の建物が好きだ、建物というもの以外の一切とは無関係に。
「君はそうやって"渡る"のが好きなのか」
友達はデスクトップの作業を続けながら、彼に言った。
「いつ君は君の時間を生きている?」
「僕はいつも話しながら考え、考えながら聞き、聞きながら話して考えてる。だからこうしているのが一番生産的なつもりなんだよ、精神衛生的にもいい、と思ってるんだけどね、どうかな、先生」
「俺はそういったことについて何の専門性も持ち合わせていない、よく知ってると思うが。ただ君の道化っぷりには感動する、本当に酒と金を抜きにすれば、君ほど周りに微笑みを振りまく人間もいない」
「人間失格以前だけれど、ね」
「女を泣かせるほどの甲斐性はないんだろ」
「そんなに剛毅な人間じゃないよ、泣くのは勝手だけど」
「まぁそれだけ口が回るならいい、その調子で騒いでくれ。ここ以外で」
「みんな僕を追い出すんだ」
「でもみんな受け入れてるさ、つまり君は全員を相手に一気に暴れた方がいいんだよ、それをみんな楽しみにしてる」
「それができないんだ」
「俺は君に何か書けだなんていってるわけじゃない、パーティーでもなんでも、得意だろう」
「大嫌いだよ。大嫌いだから、叫いて暴れるんじゃないか」
「ご高説は堪能したよ、僕は授業がある、どうする」
「聴講するよ」
友達は研究室を出ていく。
彼はまた別の島を思い浮かべる。思い浮かぶまで。

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