彼は、渡り鳥に想い耽る。
日常生活において、渡り鳥というのはまず存在しない、少なくとも彼の日常にワタリドリは現れない。
彼の空想のワタリドリは影のような黒いシルエットで、夕焼けや朝まだきの空、雲の上の月明かりの闇を飛ぶ、優雅な隊列だった。ワタリドリは世界を巡り、地上に降りると思い出したように光を浴びて、白い姿に変わり、水に足をつけ、緑を食み、種を摘み、種を蒔き、また空に向かって飛び立ち、影となり世界を巡る。彼らは死ぬこともなく、個体が入れ替わりながらも全体としてはいつも均質に存在しているようだ、だから彼らには永続する世界の流れを感じる。
彼の空想するワタリドリは、理想的な姿で世界に存在していた、彼の世界に。
彼は空を見上げる、赤や茶色や灰色の建物の間に線を引く空の隙間に目をやる。
まれに影が横切る。何かの影、それらはどこまでも自由で創造力に溢れており、彼らの優雅な努力はそういった美しい世界の秩序に向けて集中されているように見える。
影たちはその存在の理由を与えられている。
だから影は自由なのだと、彼はテーブルに置かれた目の前のロックグラスを見て思う。

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