踊る彼女のイメージを見ている。
ファインダーの中の<みほちゃん>にダニエル君は声をかけた。
<みほちゃん>はその声に合わせて木々の中に隠れ、街を歩き、砂丘を滑り、コーヒーを飲んだ。
ダニエル君の覗く一切はファインダーの先のレンズの向こうの世界、彼によって構築され彩度を高められ輪郭化された美意識の世界だった。その中にまさに<みほちゃん>が存在していた。彼の思考がそのまま彼の体外に現出され、そして彼の脳に送り返されるのだった。
彼はまず<みほちゃん>を見ることによって、みほちゃんを知ったのである。
______
「そこに乖離があったんだよ」
「どういうこと?」
「つまり君と話すとき、君とのコミュニケーションにおいて僕は、もちろん今ではそれも幾分収まっただろうけど、僕と君との初期の出会いにおいて僕は、君に僕の理想の女性の振る舞いを投影したんだ。現実の人間としての君の人格というのはもちろん存在していたし、その人格も僕はしっかりと見つめていたけれども、同時に君を見る僕の目には君が僕の抽象的な女性像の構造物として映っていた。だから君の行動は無条件に僕の好みとして僕に映り、また君は僕の好みの振る舞いをするものだとも無意識に感じていた。君の振る舞いは僕のイメージの投影であり、君の振る舞いこそが僕のイメージを書き換えて塗り替え、僕の目、僕の視界、僕の世界を作っていったんだった。」
「それが仮に乖離だったとして、ならその乖離にはどんな問題があったの?」
「僕には彼女しかいなかった。彼女が僕を、僕の<彼女>を作ったんだから。でも彼女はそこにいなかった。彼女は僕の<彼女>ではなかったんだから。熱っぽい狂気かもしれないけれど、僕の目は明るい世界を見ながらにして盲目になったんだ、今の僕はそう思うよ。」
「今は違う?」
「現実に行動する君の見る時間の方が長くなったからね。といってもこうしてwebの向こうで交わす言葉でしか彼女を知らないんだけれど。ピグマリオンコンプレックスとかそういうのではないと思うけれど、そういう苛立ちからはもう解放されたのかもしれない」
「私は、人形だったの?」
「違う、ただ君が僕の<女性>なんだ。これまでの僕の人生で君以上の<女性>がいなかった。それだけだよ」
「暫定首位でしょ」
「そう、暫定首位だ。だからあらゆる希望と絶望が、まだあるんだろうさ」
今のダニエル君にとってはほとんどの存在が、モノのように独立して彼の環境に存在している。
彼らとダニエル君の間に線はなく、あくまでも彼の周囲は彼との空間の配置、その距離の配置によって、その時々の諸相を描く。
そして彼にとって唯一、彼の中に存在する存在、彼の存在とともにその存在が現われる存在者は、常にメディアの向こうに存在していた。
そのことに彼は気づいたのだ。
「僕の中に存在しないものが、確かに存在して。僕の唯一の人間は、決してそこに存在しなかった」
矮小な感傷趣味と言える。しかしほとんどの他人の感慨など、いつでも他人にとってはちっぽけなセンチメンタリズムでしかなかった。
ダニエル君のその途中、その狂気、それが青春だった、感じるべきはその事実であり、そこからである。
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