2010年3月17日水曜日

B.

静かに伸び縮みするそのねばっこい赤い紐が、ボクとBをつないでいる。

ボクはあまりにBが嫌いだ。

あの小さな凶器、音速で振動する大きな羽音、長い足、黒と黄の息づかい、目、触角。

そしてその針。毒牙。

正面から来るときは、Bはいつだってボクの顔めがけてやってくる。

後ろを舞うときは、いつもボクのクビもと鎖骨その付け根に、着地しようとする。

ボクはいつも思う。

Bはボクを刺すに違いない。

着地の瞬間、Bの最後尾にのびるB自身の鋭敏な痛みが、ボクの首を貫くだろう。

ボクはいつだってBが恐い。

いつもそこにいるBが恐い。

Bの羽音を、ボクはいつだって聞いてしまう。

大きくだったり、かすかにだったり。

Bはいつも、ボクの耳に触れる。


でもボクはBに刺されたことはない。

Bはどこにいるのか。

いや、確かにいる。

ボクは見ている。

Bが見える。

Bはいる。

聞こえる。

ただBは刺さない。

ボクはBの着地を感じる。

ボクの体にBはその足をつける。

最後の距離、Bの殺意、Bの危険、Bのボクの生死。

Bのそれを、ボクは一度も経験しない。

Bの針の向こうには、何があるのだろうか。

Bの犯行は、それ以上のドラマを生むのだろうか。

ボクはBが何より恐い。

Bへの恐怖が、ただただボクにBを存在させる。

意識の中にどこまでもBの存在を植えつける。


ボクははじめてここで、その赤い紐。

紐を滴り伝う赤い紅い色の雫を見る。

ボクは、家中のハサミを窓から放り捨てた。    

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