知らない間に、ここに来た。来ていた、と言いたい。そう、そんなふうに言いたい。
知らない場所、そんな言い方はきっと誠実じゃないかもしれないし、言いたくない、言いたくないけれど、私は知らない間にこういう知らない場所に来たんだと、思う、いや、思わない、ただ、今はそう言いたいというだけ。わかってる。
重い音の壁、分厚い真綿、誰も聞いていない音楽、大音量の音楽が全員の頭を支配している。なぜならそれは、みんな、支配されたいと願っているから、みんなここではプログラムされたいから、踊る人形、酒と男と女と夜。クラブを上手に楽しんだりできるほど、そんなに誰も野暮じゃない。仲間でだなんて狂ってる。匿名の中で狂うこと、それだけがこんなところの価値なのに。
彼女はここに来る前に飲んだワインでじゅうぶん酔っていた。仕事終わりで飲みにいく、ということの意味は十分果たしていた。それより後の時間というのは、結局、誰にとっても、いつも、余分でしかない。それは余分に作られた余分な時間で、意味のないことを意味もなく繰り返す時間だ。そう、余分に意味なんてない。だってはじめからそんなものは存在するはずもなかった、存在しないし、これからも存在しないものだ、意味のない、そう、意味がない、だからそこには本当に、意味なんてないのだ。彼女は余分に飲んだギムレットに任せて、勝手な一般論を説明する、自分に、そして世界に。
「外いく?」
決まり切ったつまらない展開に身を任せてしまうのは、なぜだろう。余分な酒も、余分なセックスも、そこにはないも同然なのに、つい飲んでしまう、寝てしまう、いや、寝ない、同じだ、何かに自分を埋め込んで、定型化して、明日はきっとよく眠れると想像する。そう、それだけ。明日が晴れて、いや、物憂げでも落ち着くような気持ちのいい曇り空が見たい、それが動機、今日、自分を放り投げるための、道ばたに自分を捨ててしまうための、明日を大事にするために、今日は自分を素敵に汚そう、そのほうがこのまま今日が終わるよりもずっと今日に色をつけられる。何でもいい、白紙じゃなければ。
友達の友達に抱かれながら思う。
横浜で育って、東京で結婚して、彼が実家の仕事に戻るのと同じにここに来た。
作り上げるものなんてなく、家庭と仕事、遊び場、用意されたものはとてもよくできていて、それにまだ、私はそれ以外の何かを見つけるためには、本当に来たばかりの、stranger。stranger in
帰りには約束通り友達の家によっていこう。今のことはきっと彼女を幻滅させるだろう。彼女は軽蔑さえしないだろうけれど、自分への敬意だとかそういうもののなさに落ち込むかもしれない。余分なこと、そんな話はできないだろうから。
今の今は誰のことも考えたくない。明日、ベランダから雲を見る。それが今の私のすべてだ。ラブホテルの天井、そんな私の今の。
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