2010年4月5日月曜日

factotum - 談笑

ボクは、以前にダニエル君が話していた、ダニエル君がみほちゃんに宛てたメールの内容を聞いたときのことを、契約書作りの作業の合間、血行不良の眉間を親指と中指で指圧して、目をぐっと開いて、首を回してタバコをくわえ、オフィスの外に、他の事務所との共有スペースに取り付けられた分煙室で一服吸おうとして、思い出した。

Deer Miss Holiday Golightly.
僕の英語は稚拙だから、どうか許して。アフリカはどう?

こっちはやっとまずまずの暮らしが出来るようになってきました。
(僕ももうあれこれ浮遊感を感じることも昔に比べて減ったしね:-) )
僕にはそっちの生活なんて全く想像もつかないけれど、たまに届いていた君の手紙からすると、君にはやっぱりマッチしているんだろうね。

君があの建物と、あの街からいなくなってずいぶんと経つ。
その間も僕は、君とはしゃいだあの橋や、公園(僕はあやうく死にそうになった!)をたまに歩けば、本当にバカらしいんだけど幾度かは実際に君と一緒にいるようにも思ったんだ!本当に、現実のようにね。

こうして手紙を書こうと思っても、君のことだから、またどこか遠いところで楽しんでいるんだろうし、結局見ることもないかもしれない。

それでも、僕は君が大好きだから、やっぱりこれを郵便ポストに入れることにするよ。考えても仕方ないってことに気づいたんだ。君はいつも"traveling"だしね。

また近々、あの場所達(君がお面を盗んだグラッセリーにも行かなくちゃ)を訪れることもあるかもしれない。

その時には、また君の夢を見るんだろうか?

from your "Fred"

「今でも、あのときと気持ちは変わらないね。いや、好きとか嫌いとかの気持ちがじゃなくて、そのとき自分がどういう気持ちで彼女に話したかということを考えると、そのときの自分は今でも自分の中で生きているってことね。よく言うような、若いときの自分はもう別人だ、っていうのが、少なくともこれにはない。ってことは、悪くないんだよね、たとえ別に意味もなくて、よくもなくても。」
「そういうふうな気持ちの伝え方か。嫌みじゃなくて、感心するよ。ボクにはまぁ、できないしね。そういえば、そもそも人に自分の何かを言うっていうことをしないな。」
「そもそも人に何かを思うってことが、ほとんどないんじゃないの。大文字の<ひと>から入るよね。<ひと>全部にざっくり印象をもって、そっからこう個人とかに感情移入していくじゃない。ぼくはチョロQみたいにこう、当たっては捨ててって感じだけど。最初から付き合う人に対して慎重な段取りがあるよね」
「でも姿勢は変わらないよ。お互い、傷つくのは嫌いだよ。小さな円を広げていくか、大きい円をせばめていくかの違いだけじゃない。」
「はい、落ちましたね。見事」

タバコの濃厚な煙とアルコールの上気する芳香で歪められたボクの部屋で、ミュートされた深夜のテレビショッピングだけが乾いた動きを繰り返す。
朝が来るのがなぜ憂鬱かと言えば、無生産なことがわかっているのに、さも意味ありげに生産してますよというロールプレイングの世界に戻らなくてはいけなくなるからだ。特に大学なんていうのは、そういうところだ。本当に何にもならなくても、何もやってないことすらもやってることになるんだから。大学生なんて固有名詞は、社会から抹殺したほうがいい。

ボクは若いときに、思えばそれくらいのことを思ったものだと思い出して、笑ってタバコを灰皿に潰した。
今でもそう思う。少し気を抜いたり緩んだりすると話の進め方がラディカルになってしまうのは、変わらない。
ただ、仕事のいいところは、給料が出るということだ。やらないこととやることの間に、はっきりと線がひかれる、そこが気持ちの落ち着くところだ。そうじゃないなら、何も変わらない。ただ弓なりの体力の推移だけのライフコースがあるだけだ。
ボクははっきりと、<ひと>の生活リズムに、自分に生活のリズムを合わせてしまった、そういう生活と日常を自分に与えてしまった。
これが悪いことなのかどうか、それがわからない。    

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