2010年4月14日水曜日

factotum - my selfish theory of my affection.

アパートメントの外灯から、賑やかなネオンの光へ。

乱立する建物群の無数のキラビやかな光が、黒く磨かれたセダンの肌を撫で付けて、名残惜しそうに後ろに流れていく。

そういう一切の景色に無関心に目をやりながら、みほちゃんは後部シートの窓からただその流れていく光の強度を目に受け入れている。

青、黄、赤、レッド、オレンジ、紫、LED。

単純で鋭い閃光が、単調に彼女の角膜を刺激し、脳裏に残像を残していく。

一見すればそれは人間の享楽趣味の歴史、欲望を喚起させるためだけに積み上げられた醜い資本主義の娯楽産業の塊のように思われるが、そのために流された多くの汗や個人のドラマを考えると、またそれは何ともロマンティックな都市の時間を感じさせる。

ただそんな膨大な背景も、時間と切り離された他人から見れば、それはただの環境の一要素、ただの光の刺激がそこにあるという、偶然そこにあるだけの何かでしかない。

みほちゃんはじっと、それを眺めている。


車は細いアパートが密集する道の片側に停まり、運転手は外に出てドアを開けた。

彼女が玄関のブザーを押すと、出てきた男は手をとって階段を上がり、二階の部屋に案内した。

多くの人間がほとんど体の自由を奪われるくらいに溢れていて、その間を何人かのウェイターが酒を運ぼうと、そのトレンチを上に突き上げて器用に間を縫っている。

彼女を案内した男はどこかに消えて、別の男がみほちゃんの姿に気づいた。

「やっと来た。こっちだよ」

みほちゃんは首を少し傾けると、そばのウェイターにウォッカ・マティーニを頼んで、人混みの中を進んだ。

男は彼女を近くにいた人間に順番に紹介して回った。

届いたマティーニに口をつけながら、みほちゃんは軽い頷きと笑顔を続けていく。

「不満かな?」

部屋のはしに空いたソファに座って、男は聞いた。

みほちゃんはまた首を少し傾けて、意外ね、というポーズをとった。

「不満なんて、ないわ。十分、満足。だってこんなにみんなが楽しそうなのに、私が何について<満たされていない>と感じるの?私は何とも衝突していないわ。私には明日なんてないし、今はおいしいお酒がある。そんな私と、楽しんでいるみんな。どこにも問題なんてない、素晴らしい世界よ」    

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