階段を降り、守衛の前を抜け、裏口のドアからビルを出る。
タクシーを拾い20分ほどで物件に着くと、担当者が待っていた。
タクシーを降りて彼は「どうも」と軽く挨拶をし、事務所で報告書といくつかの資料を求めた。
「今月は急な配置換えとかがあったんです」
書類に目を通す彼の横で、担当者は立ったまま言った。
「新しい人がまだ慣れてなくて」
「そういうところはちゃんと評価に反映されています」
「あぁ、はい、そうですか」
担当者は彼の返事に何か驚いてすぐに言葉を返した。
「では、これをいただいていってもいいですか?それとも別にコピーを?」
「いえ、どうぞ、それを提出します。はい」
地下鉄に乗りながら彼は、さっきの不慣れな担当者を思った。彼の会社の内部評価システムは社内の人間の中でもその詳細を知るものが少なかった。それについて何かを詮索することなどまったく無駄であったし、そういう種類の努力はむしろ減点評価につながった。評価は、なるようにしかならなかった。誰かの評価によって、評価された担当者が何かの罰を受けることなどめったになかった。会社は業務一般のすべてが「なるようになっていれば」それでいいとしていた。会社はそこ働く全員にそれ以上の正義や使命感などを求めてはいなかった。「彼ら」は与えられた業務をその裁量の中でこなしていればよかったし、彼ら自身も会社が管理している業務の一部だった。物件の管理もその評価も、業務の中で上下するただの数字だった。数字はその閾値の中で上下していれば問題はなかったし、そうやってマネジメントされていた。彼は自分の業務をそう理解していた。
地下鉄を出て、次の物件に行く前に彼は昼食をとることにした。大通りと交差する細い道を適当に入り、通りに面した食堂を選んだ。
ブータンノワールとじゃがいものパンに赤ワインを頼んだ。
皮が妙にくたびれたブータンノワールは、作られたばかりというような生々しさを残しており、彼の口の中で、ヌチャヌチャと踊った。その手をじゃがいもパンがとり、ブータンノワールとじゃがいもパンは抱き合うようにして喉を通り、胃に落ちる。赤ワインがその痕を洗った。
勘定を済ませて外に出る。青白い空はまだ朝と同じ色をしていた。
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