ダニエルは酔っぱらっていたからこそ、ホテルに電話した。
「今から二人、ええ、12000円、あぁ、じゃあちょっと考えます、ありがとう」
「さっきお電話したんですけど、えぇ、そう、うん、じゃあ今から二人、はい、お願いします」
彼は、アルコールのない時間には、彼自身、ただのセックスというものがどれほどその後に虚無のような寂寞とした印象を自分に与え続けるか、そこから来るそのときの自分の自信や矜持への嫌悪感に恥ずかしさを感じ逃げたくなるかを、素面のときには考えていたし、そう思っていた。
ただ酒だけが、そういう頭でっかちな理屈を吹き飛ばし、そうじゃない世界、彼が想像しない世界への、そういう世界があるかもしれないという身勝手な期待を助長する。
結果はいつも、そう違いのないものだった。
ただ、ダニエルが年を重ねるごとに学んだことは、彼自身の不誠実だった。
刹那主義というイズムの皮をかぶること、どこかで見たどこかの国の映画の誰かを気取ること、そうやって、「そういうドラマの1シーンだったのね」という思い出にしまい込むことを、彼はそういった技術と安逸を獲得していた。
「悪いとか、悪くないとか、わからない。ワタシが悪いと思ったことは、悪いことだもの。でもワルいことって、絶対ワルいかどうか、わからないものね。だから、ワルいことも、楽しいのよ。イイことが、疲れるのと同じようにね」
コンビニで買ったビールと、ブルーベリーのヨーグルトを口にいれながら、二人はごろごろとベッドに寝そべりテレビを見ていた。
物質は空間を定義するのか、空間は関係を定義するのか。
定義、これほど便利な発明があるだろうか。
真理を否定して、ルールに従順になることほどの怠惰な安楽があるだろうか。
「それなのに、ルールを弄ぶことが、不道徳だなんて言われる義理はないよね」
ダニエルの吸ったタバコは、ぐしゃっと潰れながら、灰皿の中で苦い顔をしていた。
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