「あぁ、まったく、くだらないくだらない。もう、噴飯ものだよね」
ダニエル君は、帰ってくるなりどかっとソファに座って、そう言った。
「見てみてよ、このマニフェストとかいうやつ。いや、さっき道でさ、結構な人数でこれを配ってて、労働問題を訴えてるわけ。で、もう馬鹿は無視しようと思って、こんなものも受け取らなかったんだけど、信号待ちの間にちょっと興味も湧いてさ、すみません、やっぱり頂いていいですかって、もらったの。そしたらその人、やっぱり今は格差の問題が、とか、いろいろ言うのね。でも、見てみて、最低時給を1000円に、って、ははは、確実に彼が最初にクビになるだろうね。ちょっと考えればわかるじゃない。根本的に馬鹿なんだよ。馬鹿だから、人より社会的価値がなくて、貧しくて、だからこんなメシア主義に傾倒するんだよね。本当に、負の連鎖だよ、馬鹿と救済主義は。日本ももう少し貧しかったら、社会主義革命が起きちゃうだろうね。でも起きないっていうのは、豊かだってことの証明だよ。もちろん、相対的なあれだけどね。」
ダニエル君は、帰ってくるなりどかっとソファに座って、そう言った。
みほちゃんは、別になんでもないことになんでもないように紅茶をいれて、それをカップに注ぎ、ダニエル君のテーブルに置いた。
「そうね。理論的だし、多分当たってる。でも、いいじゃない、馬鹿は馬鹿で。もちろんあなたの言う馬鹿だけど。それで、その馬鹿をどうしたいわけ?あなたはそんなに世界中が幸せになることとか望んでいたっけ?」
ダニエル君は、紅茶に砂糖を多めにいれて、すすった。
「彼を自分のフラストレーションのはけ口にしたかどうかは、まだわからないけれど、二つあるね。啓蒙主義なエゴイズム、いや違うな、自分の価値観への自信と、でも純粋にこの世界の一切が永遠の美しさの中につつまれればいいのに、っていう二つの心境かな。全部が全部、ぼくのエゴイズムなのはもちろんだけど」
甘い紅茶、ソファ、その空間が、どんな話題も無意味にする。
その豊かさの中で。
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