いえ、違うのです。実は、こうなのです。ボクは矛盾した気持ちを抱えているのです。だから、と、四の五の言い訳をして、言い訳のために生きていたって、始まらない。
そういったつまらない、本当につまらない雑文、エクスキューズを書いているくらいなら、とっととちゃんとした文章というものを書けばよろしい。批判には、それから応えよ。
誰に何を言われようと、ボクはこの文体を、今日は貫く、貫いてみせる。どちらも苦しい地獄であれば、インタレスティングな地獄をずぶずぶと歩いてみせましょう。足が焼け、皮膚が溶け、体がずる向けになろうとも、ボクには地獄を歩くしかないのです。
ピノ・ノワールを主体としたワインだけを、酒として飲む、と決めていたわけですが、とんでもない、今のボクは立派なアルコール中毒です。
人と飲まなければ、やっていけない、ボクは消失してしまう。素面のままでは、ボクは永遠に眠れません。素面のままでは、やることがないのです。高尚な軽口、それがボクの唯一の武器です。口から生まれ、口で死んでいく、つまらない男には、つまらない責任しか残されていないのです。
軽口に飽きられて、死ぬ男の末路は如何や?
そうでした、軽口を言い通す地獄を選んだのでした。
「私は、淋しさなんて感じない。私は弱くないもの。」
そうあなたは言いました。いや、本当は、
「私、今、まともなの。だから淋しさなんて感じないの。女だから、かしらね」
と言いました。
淋しさは男の低俗でしょうか、それとも男女共通の心の強弱でしょうか。
それを全面的に受け入れましょう、降伏してみましょう、ボクは、今、男であり、そして人間としてあまりに、弱い。
しかし、それがいけないことだとは、ボクにはどうしても思われないのです。人間のステキさ、それだけが唯一の真理です。
あなたは、今、本当につまらない。チェ、と、口を鳴らしてしまいます。
ボクがいくらつまらなかろうが、あなたはステキでなければいけなかった。
ボクの思うステキなあなた、それが世界で一番ステキなあなただと、ボクは全世界に向かって、説明できます。
ボクは、負けない。
始めから世間に負けているのですから、もう負けようもないのです。負けない戦いの全精力をかけるのならば、ボクはこの闘争に、この軽口の全てをかけます。
軽口家の革命。
それ以上の戦いも真実も、ボクにはなかったのです。
ボクが、こうやって文学をやりはじめたそのときから、ボクの戦いはあなたと、あなたを取り巻く全てのものとの戦いでした。
ボクはそれら一切のものに勝つために、それ以外の全てに負けることを決めたのです。
勝つ地獄のために、負ける地獄を選んだのです。
地獄を歩くボクのゴールを、ボクは決して諦めません。
地獄の悪魔、それが今のボクなのです。
今のボクには、失う己がないのです。
あらゆる愛が恋であるならば、ボクのあらゆる恋の対象であったあの人を失って、ボクは何も持たない、ボク自身すらもない、空っぽの物体なのです。
夜の街をふらふらと浮遊するただの物体、ただの物体には何の実体もあるはずがない。
物体は自然の重力に流されるのです。
自然。ボクの自然は酒なのです。
酒のみがボクの恋の希望を、その希望が生まれる可能性の夢を見せてくれます。
失った恋を、酒だけが懐かしく想わせてくれ、新たな恋の希望を感じさせてくれるのです。
ボクは、淋しいのです。
淋しくて、たまらないのです。
ボクの手が震えているのは、酒のせいではありません。それは、涙なのです。
深夜3時の寂寞に、恐れ、震えて、涙が止まらない。
これが恐くて、ボクは酒を飲むのです。
深夜3時を、振り向きもせず、逃げ切りたいのです。
これをあなたは弱いと言う。
しかしです、みんな弱いはずなのです。
ただみんなは、格好をつけられるだけなのです。
ボクは、格好がつけられない。
ボクは、負ける地獄を選んだのですから。
地獄世界の食料は、酒しかないと昔から決まっているそうなのです。
ボクは、食べるものがなくて、仕方なく酒を飲むのです。
図書館で借りた本の返却期限が一日過ぎてしまいました。
こんな些細な事実に、ボクは打ちのめされるのです。
梅雨の始めの雨の日に。
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