大きな文字を、
ボクたちの小さくて可愛い唇から語るのは、もう止めよう。
ボクたちの世界はとても小さくて、この世界は目が眩むほどに多彩で、
つまらないこともおもしろいことも、そういうものをいろいろ受け止めることに、ボクらはへとへとになってしまうけれど、
誰かが作った文字を、自分勝手に読むのは、止めよう。
ボクたちは、新しい言葉を、それがたとえとても小さな文字だとしても、自分の言葉を大切にして、それをささやいて、そして全世界に向かって声を張りあげよう。
大きな文字で話すのは、もう止めよう。
瞬間に、世界は終わりを告げてしまうから。
全ての世界が。
100次元のすべてが。
そこには喜びも感傷も諦めも淋しさもなく。
孤独が、あるだけ。
くだらないタイトルが、残るだけ。
———新宿からの高速バスの中で。
ボクは、2時間前にボクが危なく乗り過ごしそうになったバスの中で、この数日の思い出を振り返りながらうつらうつらと眠りと窓の外、二つの景色をイったりキたりしていた。
少し空調が効きすぎている、足と唇が寒い。
次に目が覚めたときに、自分の息が白いことを確認した。
周りを見ると、乗客の多くが前屈みに、寒さを耐えていた。
「まさか、クーラーぐらいでね。確かに、わざわざ運転手のところまで行けないか」
すると二階席の最前列左C席の男性、ボクから見て二列先の左方に座っていたニット帽をかぶった男の人が立ち上がった。
最初見たときから、少し気味が悪かった人だ。
その男の人は立ち上がり、こっち、一階へと降りる階段に向かう方を振り返りながら、マスクを外し、マフラーを外していく。
「君、起きてるね。下に行って、空調を切ってもらおう」
「はい。(糸井重里だ)」
ボクは突然の有名人に驚きながら、糸井とともに運転手のところまでいき、事情を話した。
階段を上がり、自分の席に戻ったときには、乗客の全員が気の抜けたように楽にしていた。
ボクは自分の席、3列目Aに座ろうとした。
すると糸井は、ボクの席の真後ろに座り、声をかけてきた。
「君、——。○○、××」
空が明るくなって、いつしか陽気な明るい日差しが、バスの中を満たしていた。
ボクと糸井はそれからしばらく話しながら、休憩のために停車したインターでバスを降り、少し街を歩いた。
向こうから、二人の中年男性が肩を組んで、こちらに向かって歩いてくる。
「あ、さっき話していた人だね」
「ボク、夏目房之介さん、好きなんです」
そうしてボクたち4人は、お酒を飲みながら、ああでもないこうでもないと、ああでもこうでもない話をした。
目が覚めた。
深夜の暗いバスの中で、乗客たちは静かに寝息をたてている。
3列Aに体を埋めたままボクは、少し落ち着いて一呼吸し、ペットボトルの水を一口、口にふくんだ。
体を起こし最前列Cを覗くが、誰もいない。
その列のA、ボクの席の前の前の席にニット帽の男がいた。
最初にボクの列の向こう端の席に座っていて、これ以上誰も乗らないというアナウンスのあとに席を移ったあの気味の悪い男だ。
ボクは夢をみていたことにようやく気づいた。
もういちど、ペットボトルの水を飲む。少し多く飲む。
バスは高速道路を走る。
高速道路の外には、日本以外のどこかの国の田園風景みたいな田園と民家がゆっくりと流れていく。
「大きな文字と、ボクは戦ってやるさ。ボクの言葉が大きくなるまで」
ボクは、ケータイを少し眺めて、また寝た。
クーラーはもう、切れていた。
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