雨の日は、おとしものが多い。
雨の日の夜に、おとしものはやってくる。
ハンカチ
くつ
帽子
イヌ
イアリング
眼鏡
目
目の玉
二つの目の玉
瞳
光彩
血管の通った白い
脳につながる
目の
タマ
雨は、さっき少しやんだ。
ぼくは夜の涼しい街を、散歩しようと、外に出た。
ぶかっとしたワークジャケット、外国の運転手が着るらしい少し無骨なジャケットを着て、夜の街路をふらふら歩く。
歩き始めてすぐに、前の方に何か落ちている。
湿ったトウカエデの木の根元、緑の影の下、フルフラットの石畳の上にごろんと二つの眼球が落ちている。
ぼくは近づいて片方の眼球に手をのばし、しゃがんだまま、片方の眼球の汚れを大きめのジャケットの裾で拭った。
立ち上がって、手を空にのばし、一個の眼球を見上げる。
「おとしものだ」
雨が、また落ち始めた。
ぼくは自分の顔の、片方の空いた眼窩の空洞に、急いでおとしものの眼球を仕舞った。
くぼみにしっくりと納まるまで、右の顔面の筋肉をぐりぐり動かす。
目をあけると、視界がぼやけて揺れている。
街灯の光とトウカエデの影、道沿いに並ぶ背の低い建物と向こうから来る一台の自転車が、まぶしく混ざる。
ぼくは走って、家に帰る。
雨が強くなってきた。
大きめのワークジャケットは、ずいぶん雨を吸っていく。
服がどんどん、重くなる。
落ちてくる雨を吸って、まずはぼくの足が、地面に擦り減るように沈んでいく。
ぼくは懸命に足を動かしてみるけれど、足は確かにその神経を感じさせるのだけれど、地面の下で動かない。
ぼくは両の腕を使って、前に進もうとする。
クモのように、二つの腕を交互に動かし、ずるずると前に這い進む。
髪が濡れて、重い。
上半身全部を覆うジャケットが、重い。
ぼくはもう自分の頭の自重を自分で支えることが出来なくなって、
首を前に後ろに倒してしまい、
次に頭を振った瞬間に、さきに仕舞った眼球を、ごろりと落としてしまった。
向こうに向こうに転がって行く眼球。
ぼくはそれを空になった眼窩で見ている。
上半身をクモのようにして、両肩両腕を張り出して、地面に手をついて、体全体で雨をドブドブ吸いながら、
ぼくは遠くで止まった眼球をじっと眺める。
残った片目で。
向こうで誰かが、片目の眼球を拾っている。
彼には両目がない。
後ろを見れば、さきのトウカエデの下で、男が残った眼球を自分の顔に仕舞った。
残った彼の片方の目も、空洞で暗い。
片目のクモが一匹と、片目の人間が二人。
20メートルの距離に、等間隔でいる。
「恥ずかしい」
真ん中のクモは、
横道に入って、這って家に帰った。
ジャケットが、重い。
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