一般的に、赤ワインと魚介類は食い合わせとしてマッチしないと思われているが、その半分は事実だし半分は思い込みだ。
しかし、タンニンが強いぶどうの皮のざらざらを感じるようなピノ・ノワールにスルメイカの天ぷらとなると、さすがに少しえぐみのあるもわっとしたアンバランスが口中に広がり鼻に抜ける。
「でも、そういうときのあの感じ、おもしろいし楽しいから私は好き」
「へぇ、かわってるね、何かなそれは、マゾなの?」
カワサキは笑ってそう聞き返した。
「Mか〜、そうなのかな〜わかんないけど、ほら悪いものじゃないじゃない。おいしいものは匂いもきついでしょ、あんまり気持ち悪い匂いじゃなかったら、私は好きだなぁ、可愛いし愛せるもんね」
まいちゃんは紅いテーブルに片肘をつきながら、オリーブに楊枝を突き刺して口に運んだ。
オリーブか、目の前のタラのフリットと彼女の白のグラスを見ながらカワサキはその三種が口の中で混ざり合ったその世界を想像する。
「もう少しさっぱりさせてくれる白にしようか、僕は詳しくないけど」
「そうだね、お店の人と目が合ったら呼ぶよ」
二人はそれぞれのグラスをそれぞれ眺めながら、昨日の夜の自分を思い返す。
カワサキは自分の部屋にいた。
「急だった、かもしれないな」
まいちゃんも自分の家にいた。
「急だった、かなぁ」
カワサキは店員を呼び白のハーフを注文したあとで言った。
「今日は?何してたの?」
「お昼過ぎまで寝てた、君は?」
「朝は大学だね、夕方に家に帰ってシャワーを浴びた。大学でも浴びれるけど、落ち着かないから」
「昨日は?」
「夜は、家にいたよ。君は?」
「おうち」
ワインが届き、新しいグラスに注がれる。
「おいしい。でも私はさっきのも、よかったな」
「世の中、だいたいほとんどのものは素敵だよ」
カワサキの言葉に、まいちゃんは口を付けていたグラスを置いて、笑う。
「なにそれ、どうしたの?おかしい」
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