「経験されていく結末っていうのは、どうでもいいんだ」
ダニエル君は、灰皿にタバコの先を押さえつけて言った。
「僕は、僕以外のことがわからない。誰かが考えたり感じたりする世界とか、たとえば第三世界、どうでもいいけど酷い言葉だよね、でもつまりそういった人々の窮状を、彼らが感じる苦しみと同じように感じるなんていうのは出来ない。僕は現在に対して目くらだし、僕は可能性の世界しか見えない」
カワサキは両足の間で手を組みながら、黙って聞いている。
「だからさ、一番つらいのは、今この瞬間に何もないことなんだ。それは矛盾してなくて、可能性が転がる先もないような現在が、僕にとっては最もつらくてきつい状態なんだよね。どうなってもいいから、どうかなっててよ、ってね。つまらないかに?」
「いや、聞いてるよ。」
カワサキは、コーヒーのマグカップに手をかける。
「それだけのために来たの?」
「まさかまさか、もっとお話しようと思って来たんだよ。最近どうなの?」
「まぁ、これが息抜きになる、という感じだね」
カワサキはディスプレイにメールが来たことを確認し、指で操作する。
「そんな話をされるとね、そんなことも考えない自分を、客観視してしまう。僕は何を考えて、日々生きてるのか。」
ソファの上でダニエル君は、結んだ手を口に当てて、笑う。
「お兄さんは、立派だよ。一兎も追えない人間が言うんだから、間違いないね」
カワサキは、ワークチェアに背中を沈めて笑う。
「ウサギは、ウサギだからなぁ」
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