2009年1月30日金曜日

読書感想

「サイボーグ・フィロソフィー」 高橋透 NTT出版 2008年


読む価値がないとは思わないけれど、あまり効果は期待できません。


著者は、人間の脳が、その可逆性と外部環境のテクノロジーの発達にともなって、どんどん物質世界と直接に繋がっていき、我々個人は前物質=他者との間を「たゆたう」ようなメンタリティーやアイデンティティーを獲得していくと主張します。


それの証明に用いる科学実験の例はなかなか面白く、なるほどと勉強になります。


また先の、脳と対象世界のビット化による宇宙の統合とその中を自在に可変していく個、というテーマはもちろん悪くありません。一つの示唆に富むものだと思います。


ただ、彼の「攻殻機動隊」の分析は、まだいいとしても、森博嗣の「スカイ・クロラ」の分析は全くナンセンスです。


このナンセンスというのは、もちろん私の主観ですが、どうも著者は自説の論証にこの作品を強引に持っていったように見えます。


キルドレが飛行機の中で感じるあの燃えたぎる情熱は、別に彼らがテクノロジー(キルドレ)とテクノロジー(飛行機)の繋がりの中で感じるものではなく、生の継続にも死の襲来にも何の意味も持たない彼らが、それでも唯一価値があるとすれば、それは一瞬のエネルギーの爆発であり、それこそ命をかけるに唯一値するもののために命をかけるというそのチャンスへの熱烈です。


彼らは戦争を欲するのではなく、一瞬の価値の実現を願うのです。


少なくとも僕はそう思うので、彼の分析には疑問を感じざるを得ません。


また本書はそこから、ハーバーマスのサイボーグ観の紹介とその批判に移りますが、それもあまり議論の体を成してはいない。


あんまり対峙してないですね。


もっとコンパクトな提案書、であれば素敵かなと思います。


まぁ、悪くはないんですけどね。    

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